【別府市】湧出量日本一の温泉地でアイデアも湧き出る!?“湯けむりワーケーション”
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湯けむりたなびく温泉街…情緒ある観光地としてのイメージが濃い別府で、「稼ぐ力を高めていく」ことを目的に2017年に発足した一般社団法人別府市産業連携・協働プラットフォームB-biz LINK(以下、同法人)。企業や大学、行政機関などと連携を図りながらさまざまな活動を行っています。別府市役所産業政策課から同法人へ派遣され地域ビジネスプロデュースチームでコーディネーターを務める魚返(おがえり)さんが、別府市がワーケーションに取り組む背景を教えてくれました。
観光ではなく、産業振興につなげることが目的
現在、ワーケーションに関して多くの取り組みを実施、発信している別府市。まずはそのきっかけを尋ねました。「元を辿るとコロナ禍でリモートワークが普及する以前から、別府市では『イノベーション創出型ワーケーション』の実証実験を行っていました。中心になったのは、別府と東京で2拠点生活をしていた当法人の元スタッフ。都心の大手企業の方々が3泊4日の行程で別府に滞在し、有識者との意見交換や学生のビジネスアイデアについてディスカッションするなどのプログラムで何が生まれるのかというチャレンジでした」。そうした活動が、今日の産業振興を軸としたワーケーション施策へとつながっているそうです。
ビジネスとしても行く価値があると感じてもらうために
当初から観光をフックとせず、ビジネス的視点でのワーケーションを進めてきた理由を、魚返さんはこう話します。「今はコロナ禍の影響で減少はしましたが、もとより別府市には国内外から年間約830万人もの人が訪れ、観光客を呼び込むコンテンツはあると自負しています。しかし、観光以外の目的で訪れる数は決して多くありません。ワーケーションを手段の一つとして、ビジネスと紐づいた関係人口・関係企業を増やすことで別府の産業振興につながればと考えています。それにはビジネスとしても行く価値があると感じていただかなければいけません」。『別府=観光のまち』というイメージだけでなく、ビジネスの観点から見た別府のポテンシャルを知っていただき、『新たにビジネスを行うまち』、『働く環境が整っているまち』、『社員が健康になるまち』という新しい価値を提供できればと思っています」。温泉や観光だけでなく、多くの大学があり将来有望な学生が暮らしていること。リモートワークできる環境があること…。つまり新規事業創出や地域課題の解決、人材維持の環境が整っていることを、ワーケーションをフックに伝えたい。そうしたことから、「新しいことを学べる」「地域の人と交流できる」といった内容に重きをおいたプログラムを打ち出し、ビジネスパーソンが別府に来る機会創出を図っているのです。
ワーケーションに取り組む中で見えてきたこと
ただ当初、ワーケーションの取り組みに対する地域の反応は芳しくなかったと魚返さんは明かします。「そもそも人は来るの?、何をすればいいの?と様子見されていたとは思います。観光のお客様ではなくワーケーションのお客様の受け入れとなると客単価も変わり、経営上の判断も難しくなりますから」。状況を打開するきっかけになったのが、2021年6月の観光庁による「新たな旅のスタイル促進事業」モデル事業公募への申請です。
ワーケーションの取り組みに関心がある地域の事業者と連携し、その事業者の思いを尊重することを重視してプログラムを作成しました。「こんな内容であればビジネスパーソンに響くんじゃないかと、共に積み上げました」。北浜、鉄輪(かんなわ)、明礬(みょうばん)の各エリアでそれぞれの地区の特色を出すようなプログラムを作成、これによりワーケーション施策に携わる地域のプレイヤーも増加しました。
また取り組みを通して、日常業務の時間も確保できる余白を持たせたプログラムの必要性や、企業によってワーケーションの目的や持ち帰りたい成果が大きく異なることにも気付いたそうです。「温泉で健康になり仕事のパフォーマンスを上げたいという企業もあれば、社内コミュニケーションを活性化させたい、地域との交流を通して違う視点から技術を考えたい、とその思いはさまざまです。ですからワーケーションに取り組む背景を丁寧に聞き、オーダーメイドで対応できるようにしています」。
さまざまな別府式ワーケーション
最近の事例を聞くと魚返さんは、別府ONSENアカデミア実行委員会が『免疫力日本一宣言』に向け、腸内細菌検査を活用して温泉の効果を医学的に検証する実証事業をしたことを挙げてくれました。
そのモニターツアー参加企業がワーケーションプログラムを実施。一週間の滞在期間中大半を市内のコワーキングスペースなどで通常勤務をしながら、ランチには地元の地獄蒸し料理も体験。そして一部の時間を活用して、持続可能な温泉文化について考えるプログラムを実施したといいます。地域で古くから親しまれている温泉の清掃を実際に体験してもらった上で、温泉振興に取り組んでいる方々や地元大学生とディスカッションを実施。参加された企業の方にはさまざまな気付きがあったようです。
また別の事例では、東京の企業から社員31人という大規模なワーケーションの受け入れもされたそうです。「メンバーは多国籍でしたが、元々別府はインバウンドを多く受け入れてきた土地柄なので、ムスリムの方への対応もスムーズでした。仕事は市内のコワーキングスペースを用途に合わせてご利用いただき、チームビルディングのコンテンツには市内にある国内初の常設ドローンサッカーアリーナを活用。大いに盛り上がりました」。この二つの例だけをとってみても、地域にある素材や人財をさまざまにマッチングさせながら、各企業に合わせたワーケーションを実施していることがうかがえます。
今後の展望
別府市におけるワーケーション情報は、2021年6月に公開し2022年3月にリニューアルを実施したワーケーション専用サイト「BEPPU YUKEMURI WORKATION」に集約されています。初期のページはコワーキングスペースや宿泊情報のみを掲載したものでしたが、リニューアルを経ておすすめモデルプランや実施プログラムといったコンテンツも掲載することで、発信情報をより充実させています。こうしたサイトをはじめ、さまざまな形で成果を見える化したことで企業の目に留まり、それがまた新たな取り組みを生んでいるようです。「ワーケーションをきっかけに市外の企業をはじめとするビジネスパーソンと地域企業や学生、行政との交流が生まれ、双方にとって新たなサービス創出のきっかけが生まれれば」と魚返さん。今後も多くの企業がビジネス面で別府と接点を持ってくれるようなきっかけを作っていきたいと語ってくれました。
最後に
取材中、魚返さんがしきりに「観光ではなく、産業振興施策なんです」と言われていたのが印象的でした。事例を積み重ね企業と地域のタッチポイントが増えることで、さまざまな人が別府で交流し、新たな産業やサービスがうまれていくーー。理想とする未来の実現に向けて着実に取り組みを重ねる別府市の今後からも、目が離せません。
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