有期労働契約における労働条件変更の課題 vol.2
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昨今、新型コロナウイルス感染症拡大の影響から、有期雇用労働者との契約更新の際に労働条件の変更を行うケースが見受けられます。しかし、労働者からすると、提示された労働条件に合意しないと契約が更新されないことから、やむを得ず承諾することもあります。果たして、ここに法的な問題はないのでしょうか。vol.1に引き続き、本稿では、変更解約告知の問題の所在などについて述べていきたいと思います。
変更解約告知における問題の所在・導入が望まれる留保付き承諾
日本における変更解約告知についての問題点は、使用者による労働条件変更の申込みに対して、労働者がその合理性を争うことを留保しつつ承諾して、暫定的に新労働条件に従って就労することによって、解雇(労働関係の終了)という事態を回避できないという点です。
この点、理想的に変更解約告知が行われている国にドイツが挙げられます。ドイツでは、労働契約上、職種や勤務場所が特定されることが多いため、これらの変更は変更解約告知によって行われる必要があります。解雇制限法上に特別規定があり、労働者は労働条件変更に承服しなければ、変更に一旦従ううえ、労働条件変更が社会的に不相当である訴えを3週間以内に労働裁判所に提起することができます。この裁判で労働条件変更が不相当とされれば従来の条件に復帰できるし、相当とされれば新条件に最終的に従うか、解雇されるかを選択することとなります。
その一方、日本では、民法第528条に、「承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす」と規定しています。そのため、留保を付けて承諾することは認められないのが原則となっており、ドイツのように立法的に労働者に対して「暫定的な雇用継続を可能とする」ような手当がなされていません。裁判例を少しみてみましょう。ホテル配膳人の賃金を計算方法の変更・手当廃止などによって引き下げるため、同人に対する雇止めをした事案において、労働条件変更に対する「留保付き承諾」の考え方を取り入れた地裁判決も出されましたが、控訴審において否定されました。いまだに定まらない状態にあります。(Hホテル事件―東京地判平14・3・11/東京高判平14・11・26)
留保付き承諾は、労働関係を維持しつつ労働条件変更の合理性を争える点で雇用の安定・労使関係の安定に資する望ましい仕組みです。しかし、これを実現するためにはやはり立法的な解決が必要不可欠です。
有期労働契約と変更解約告知の関係とは
最後に有期労働契約と変更解約告知の関係について考えてみたいと思います。有期労働契約の労働条件変更に関する裁判例において、実は変更解約告知の事案といえるようなものがいくつか見られます。Hホテル事件やK塾事件がそれに当たります。有期労働契約が反復更新されてきた労働者に対して、使用者が契約更新時に労働条件変更を申込み、労働者がそれを拒絶したことを理由として雇止めをするといった事案です。これに対する裁判所の判断は様々ですが、雇止めの有効性の問題として解雇権濫用法理の類推適用よって処理しようとするものが多くみられます。しかし、有期労働契約の更新拒否(雇止め)とは異なる事案に雇止め法理を適用するのでは、労働条件変更を申込んだことが考慮されておらず、この点において議論は不十分であり、これに対応するには変更解約告知として取り扱う必要があるのではないかという意見もあります。
現状日本では、このように労働条件変更問題と解雇を結び付け、労働条件の変更に応じない労働者を解雇するケースが現実に存在するにも関わらず、問題の所在・導入が望まれる留保付き承諾でも述べたようにこれに対応する手段がありません。雇用情勢の変化に柔軟に対応していくためにも、「留保付き承諾」を認めた上で変更解約告知の手法を明確化し、ただちに「解雇」や「雇止め」となることを回避して労働者保護を図ることが重要であると思います。
有期雇用労働者の労働条件変更に伴う実務上の対応について
では、実際に有期労働契約の労働条件を変更する際に、どのような実務上の対応が必要になるか考えてみましょう。労働契約を更新する都度、労働条件の変更が生じる可能性があるのであれば、その旨、就業規則や労働条件通知書に記載をし、労働者と合意をとることが望ましいでしょう。「従前の労働条件を変更することがある」「契約更新の際に会社の提示する賃金、その他の労働条件は、更新前の条件とは異なることがある」等の文言を記載しておくことで、争われた場合についても「雇止め有効」と第三者(裁判所)が判断するひとつの要素にはなりうると思います。
今回のコロナウイルス感染症の影響から働き方が大きく変化したように、今後も時代の流れに伴い私たちの働き方も変わっていくことが予想されます。就業規則や労働条件通知書を変更する等、対応できることから準備を進められてはいかがでしょうか。”
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