戦略的債権回収vol.2
COLUMN- SHARE
今回は、売掛金や貸金の回収を弁護士に依頼した場合に、実際にどのようなことができるのか、弁護士会照会による財産調査の方法、裁判や執行という手続がどのようなものかをご紹介したいと思います。
また、弁護士に依頼しなければならないという事態になる前に、どのようなことを契約を結ぶ時や請求をする時にしておくべきかについても併せてご紹介したいと思います。
弁護士に相談してできること
「戦略的債権回収vol.1」では、おおむね法務担当者の方々において対応可能な手法をお伝えしましたが、本稿では、弁護士に債権回収を依頼した場合にどんなことができるのかについてお伝えしたいと思います。
債権回収のフロー
「戦略的債権回収vol.1」でもお示ししましたが、改めて債権回収とは実際にどのような流れを辿っていくのか、その全体像を把握するために、債権回収のフローをお示ししたいと思います。
各フェーズにおいて、債権回収の観点からのポイントがあり、フェーズ①~④については、「戦略的債権回収vol.1」をご参照いただければ幸いです。
フェーズ⑤:財産調査
>財産調査のタイミング
相手に受任通知書(弁護士が依頼を受け、受任したことを相手に通知する書面)を送る前に、事案によっては、まず、財産調査を行う必要があります。最終的には、相手の財産を引き当てに強制的に売掛金や貸金を回収する必要がありますが、もし、先に受任通知書を相手に発送してしまうと、相手が強制執行を回避するために、自分の財産を隠すリスクがあるからです。
>弁護士会照会とは
弁護士に依頼した場合、弁護士は弁護士会照会という制度を使って財産を調査します。
弁護士会照会とは、弁護士が所属弁護士会に申請し、弁護士会が官公庁や企業などに事実を問い合わせる照会のことをいいます。弁護士会照会の根拠条文は以下のとおりで、別名23条照会ともいわれます。
弁護士法23条の2「弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。」
>弁護士会照会で調査できる事項
弁護士会照会では、おおむね以下の事項について調査することができます。以下の事項は例示であり、これら以外にも調査できる事項は多く、調査範囲は広範にわたります。
・住所
・電話番号
・銀行口座
・証券口座
・役員報酬の有無、金額
・給与額
・生命保険の加入の有無、種類
・株式
・自動車登録名義人
・同一業者に対する訴訟の有無
・ゴルフ会員権の有無、種類、金額
>弁護士会照会の注意点
このように弁護士会照会の調査範囲は広範にわたりますが、いくつか注意点があります。
まず、先ほど述べたとおり、弁護士会照会は「受任している事件」についてのみ申請することができますので、基本的には、何らかの事件の依頼を受けたうえでなければ、弁護士会照会制度を利用することはできません。そのため、弁護士会照会だけの依頼ということはできません。
また、1件あたり7,000~8,000円(福岡弁護士会の場合)の費用がかかりますので、ある程度範囲を特定して照会をかけなければ費用がかさんでしまいます。そのため、順調に取引が継続している間に、契約相手にどのような財産がありそうかという目星を付けておいた方がよいと思います。
フェーズ⑥:仮差押え・内容証明郵便
財産調査が完了したら、次に、仮差押えをすべきかどうかを検討します。
仮差押えとは、支払いを保全するために、債務者の財産の現状を維持し、将来の強制執行を確保する手続であり、民事保全法に基づいて行われるものです。裁判で勝訴して、実際に強制執行をするまでの間に、相手が財産を勝手に処分したりしないように、「仮」に押さえておくという手続です。
また、この手続も財産調査と同様に、相手にバレないように秘密裏に行う必要がありますので、仮差押えをした後に、内容証明郵便で受任通知書を送るという手順を採ります。
フェーズ⑦:裁判
>裁判の種類
売掛金や貸金を相手から強制的に回収するためには、裁判をして、判決などを取得する必要があります。裁判にはいくつかの種類があり、おおむね以下の4つが利用されます。
・支払督促
・少額訴訟
・即決和解(訴え提起前の和解)
・訴訟
>支払督促
支払督促とは、裁判所において請求が認められる場合に、支払督促を買主・借主に送付して2週間以内に異議がなければ仮執行宣言付支払督促が送付され、さらに2週間異議がなければ、強制執行を行うことができるという手続です。ただし、買主・借主から異議申立てがなされると訴訟に移行します。
支払督促の特徴は、以下のとおりです。
・メリット:早い(1か月程度で強制執行に移ることができる)
・デメリット:相手が争う気があれば訴訟に移行してしまう
>少額訴訟
少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払を求める訴えについて,原則として1回の審理で紛争解決を図る手続です。
少額訴訟の特徴は、以下のとおりです。
・メリット:比較的早い
・デメリット:売掛金や貸金が60万円を超える場合には使えない
>即決和解(訴え提起前の和解)
即決和解(訴え提起前の和解)とは、当事者間に合意があり、裁判所がその合意を相当と認めた場合に和解が成立する手続です。
即決和解(訴え提起前の和解)の特徴は、以下のとおりです。
・メリット:比較的早い
・デメリット:相手との間で合意がないと使えない
一見すると、公正証書の作成と同じような手続ですが、公正証書には不動産の引渡しを条項に入れることはできませんが、即決和解の場合には不動産の引渡しの条項を入れることができます。そのため、金銭の支払いを求めるのではなく、不動産の引渡しを求めたいときは、公正証書ではなく、即決和解を選択することになります。
>訴訟
訴訟とは、双方が主張立証を行い、最終的に判決によって解決を図る手続です。一般的に裁判と考えられているのが、この訴訟という手続になります。
訴訟の特徴は、以下のとおりです。
・メリット:しっかりと審理される
・デメリット:時間がかかる
支払督促、少額訴訟、即決和解には、それぞれ利用できない場合やデメリットがあり、訴訟を選択せざるをえない場合があります。訴訟になった場合には、解決までに時間がかかってしまうので、そうならないために、早期に相手と話合いをして、公正証書を作成しておくべきでしょう。
公正証書の作成については、「戦略的債権回収vol.1」をご参照ください。
フェーズ⑧:執行
>執行とは?
執行とは、相手が持っている財産を強制的に売却などして、そこから売掛金や貸金を回収するという手続です。
執行は、担保権の実行という方法と差押えという方法の2つがあります。
>担保権の実行
たとえば、相手の所有する不動産に抵当権という担保を設定していた場合には、フェーズ⑦でご紹介した裁判手続を採らなくても、不動産を競売にかけて、その売却益からご自身の売掛金や貸金を回収することができます。
>差押え
裁判で取得した判決などをもとに、相手の不動産や預金などからご自身の売掛金や貸金を回収することができます。差押えの対象は不動産や預金に限られず、相手が持っている売掛金や給与などからも回収することができます。差押えをすることができる財産を特定しなければならないため、先ほどお話したとおり、事前に相手の財産調査をする必要があります。
差押えによって、売掛金や貸金を回収することができますが、財産調査をして、裁判や差押えをしなければならないため、時間と手間がかかってしまいますので、そうならないために、契約を結ぶ時点で担保を設定しておくのが良いと思います。
まとめ
売掛金や貸金の回収を弁護士に依頼した場合に、どのようなことができるのかについてご紹介させて頂きましたが、どうしても時間と費用がかかってしまいます。そのような労力を費やすことがないように、各企業の担当者の方々におかれては、契約書の作成、担保の設定、公正証書の作成など、支払いが滞る前に手を打っておくべきでしょう。
債権回収に関するご相談、その他企業法務、顧問契約に関するご相談については、弁護士法人いかり法律事務所までお気軽にご相談ください。
※この記事内容は公開日時点での情報です。