自治体がワーケーションを導入するメリット・デメリット
WORKATION
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近年、ワーケーションが注目を集めています。
リモートワークの普及に伴い、働きながら観光や地域体験を楽しむスタイルが広がり、自治体にとっても新たな地域活性化の手段となる可能性があります。
しかし、導入にはメリットだけでなくデメリットも存在します。
この記事では、自治体がワーケーションを導入する際のメリットとデメリットを詳しく解説し、導入を検討する自治体に向けた具体的なステップを紹介しています。
1.ワーケーション導入による3つのメリット
まずは、ワーケーション導入におけるメリットから紹介します。
1-1.地域経済の活性化
ワーケーション導入により、訪問者が増えることで「交流人口」や「関係人口」が増加します。
また、ワーケーション訪問者がSNS等での発信をすることで、ワーケーションだけでなく観光としての訪問者も期待できます。
訪問者がSNS等で地域の魅力を発信することで、観光客の増加も期待でき、地元の中小企業や飲食店の利用が促進され、地域経済の活性化が図れます。
1-2.雇用機会の創出
ワーケーションの受け入れに伴い、コワーキングスペースの運営や観光案内、イベントの企画・運営など、新たな雇用が生み出されます。埋もれていた人材の活用など地域の雇用状況が改善されることが期待されます。
1-3.地域文化の再発見
ワーケーションでは、訪問者が地域の生活スタイルや伝統、食文化などに触れる機会が増えます。
地域住民との交流を通じて、訪問者は地域の魅力を再発見し、地域への理解を深めることができます。
2.ワーケーションのデメリット
メリットだけでなく、デメリットを理解しておくことも重要です。
2-1.インフラ整備の必要性
ワーケーションを受け入れるには、高速インターネット環境の整備やコワーキングスペースの設置など、一定のインフラ投資が必要となります。地方自治体の財政状況によっては、このような初期投資が課題となる場合があります。
しかし、長期的な地域振興につながる計画的にインフラ強化に取り組めば、ワーケーション誘致による経済効果だけでなく、地域住民の利便性向上や新たなビジネスチャンスの創出にも繋がり、結果的に投資以上の価値を生み出す可能性があります。
また、補助金や企業との連携など、財源確保の手段を検討することで、初期投資の負担を軽減することも可能です。
2-2.地域住民との摩擦
ワーケーション参加者と地域住民との間で、生活習慣の違いやマナーの問題などから、トラブルが発生する可能性があります。地域住民との良好な関係を築くため、自治体は参加者へのマナー教育や、住民とのコミュニケーション強化に努める必要があります。
具体的には、ワーケーション参加者向けのオリエンテーションを実施し、地域のルールやマナーを周知徹底したり、地域住民との交流イベントを積極的に開催することで、相互理解を深めることが重要です。
また、地域住民からの意見や苦情を受け付ける窓口を設置し、迅速かつ丁寧に対応することで、トラブルの早期解決を目指す必要があります。地域住民とワーケーション参加者が互いを尊重し、共存共栄できる関係を築くことが、ワーケーション成功の鍵となります。
2-3.長期的な影響の理解不足
ワーケーションが地域に及ぼす影響は複雑で、短期的な経済効果だけでなく、地域社会や文化への影響も考慮する必要があります。自治体は、参加者と地域住民が互いの立場を理解し合えるよう、ワークショップの開催などを通じて対話の場を設けることが重要です。
さらに、ワーケーション導入後の定期的な効果測定を行い、経済的な側面だけでなく、地域社会や文化への影響についても定量的なデータと定性的な意見を収集し、多角的に分析する必要があります。
その結果を踏まえ、ワーケーションのプログラム内容や受け入れ体制を継続的に改善していくことが、地域にとって持続可能な発展に繋がるでしょう。また、ワーケーションの成功事例や失敗事例を共有し、他地域と連携することで、より効果的なワーケーションの推進を目指すことが重要です。
2-4.地域アイデンティティの喪失
ワーケーション参加者の流入により、地域住民から地域の伝統や特色が薄れていくことが懸念されます。地方自治体は、地域の文化や価値観を守りつつ、ワーケーションの魅力を高めるバランスを取る取り組みが求められます。
具体的には、ワーケーションプログラムに地域の文化体験や伝統工芸体験などを積極的に組み込み、参加者に地域の魅力を深く理解してもらう機会を設けることが重要です。
また、地域住民が主体となって地域の歴史や文化を語り継ぐ活動を支援し、その成果をワーケーション参加者にも共有することで、地域への愛着を育むことができます。
さらに、景観条例などを整備し、無秩序な開発を防ぐとともに、地域固有の建築様式や自然環境を保護することで、地域のアイデンティティを守り、ワーケーションの魅力を高めることができます。
3.【自治体向け】ワーケーション導入ガイド:初期段階のステップ
これまで、ワーケーション導入における、メリット・デメリットを紹介してきました。
ワーケーション導入には、交流人口や関係人口を増やす施策が重要です。
そのためには、周到な準備と計画が不可欠であり、地域の特性を活かし、関係者との連携を密にしながら、持続可能な仕組みを構築する必要があります。
ワーケーション導入を検討する自治体が、持続可能な仕組み作りをおこなうために、最初に取り組むべき具体的なステップを解説します。
現状分析から目標設定、関係者との連携、プログラムの企画・設計、そして成功事例からの学びまで、スムーズな導入に向けたロードマップを紹介します。
3-1. 現状分析:地域の強み・弱みを把握する
ワーケーション導入の第一歩は、地域の現状を客観的に分析することから始まります。
企業の戦略策定や事業計画の立案、個人のキャリアプランニングなど、様々な場面で活用されるSWOT分析のフレームワークを利用して現状分析していきましょう。
強み: 豊かな自然、歴史的な観光資源、独自の文化、地域住民の温かさ、特産品など、ワーケーションの魅力となりうる要素を洗い出します。
弱み: インターネット環境の整備状況、宿泊施設の不足、交通アクセスの不便さ、地域住民の理解不足、医療体制の脆弱性など、ワーケーション導入の障壁となる要素を把握します。
機会: ワーケーション需要の高まり、企業の地方創生への関心の高まり、政府の支援策、テレワークの普及など、ワーケーション導入を後押しする外部環境やデータを収集・分析します。
脅威: 他の自治体との施策比較、ワーケーション需要の変動、感染症の流行、自然災害のリスクなど、ワーケーション導入のリスクとなる外部環境を把握します。
このSWOT分析を通じて、自地域がどのようなワーケーションを提供できるのか、どのような課題を克服する必要があるのかを明確にすることが重要です。
単に観光地としての魅力をアピールするだけでなく、ビジネス環境としての強みや弱みとして現状を把握することが、成功への鍵となります。
3-2. 目標設定:具体的な数値目標を定める
現状分析の結果を踏まえ、ワーケーション導入によって達成したい具体的な目標を設定します。目標は、単なる願望ではなく、達成可能な数値目標として定めることが重要です。
ただし、3年後・5年後といった長期ゴールから逆算した数値目標から定めるのではなく、3ヶ月・半年・長くても1年といった、短期で達成可能な数値目標として定めていく方法もおススメです。
初期段階では、まず達成可能な目標設定をしていきましょう。
◆交流人口・関係人口の増加数
ワーケーション誘致によって、年間何人の交流人口・関係人口を増やしたいのか。具体的な人数を目標として設定し、その達成度を測るためのKPI(重要業績評価指標)を設定します。初期段階では、現実的な数値目標を設定し、徐々に目標値を引き上げていくことが望ましいです。
◆地域経済への波及効果
ワーケーション誘致によって、年間何円の経済効果を生み出したいのか。宿泊費、飲食費、交通費、体験プログラムの利用料など、具体的な経済効果を算出し、目標値を設定します。初期段階では、既存の資源やサービスを活用した経済効果を算出し、現実的な目標値を設定することが重要です。
◆雇用創出数
ワーケーション関連事業によって、何人の雇用を創出したいのか。ワーケーション施設の運営、プログラムの企画・運営、地域産品の販売など、雇用創出の可能性を検討し、目標値を設定します。初期段階では、既存の事業者を活用した雇用創出を検討し、現実的な目標値を設定することが望ましいです。
◆地域ブランド力の向上
ワーケーション誘致によって、地域の認知度やイメージをどのように向上させたいのか。SNSでの言及数、メディア露出の回数、アンケート調査によるイメージ評価など、地域ブランド力の向上を測るためのKPIを設定します。初期段階では、SNSでの言及数やメディア露出の回数など、比較的容易に測定可能なKPIを設定することが望ましいです。
これらの目標は、数値で具体的に示すことで、ワーケーション導入の成果を客観的に評価することができます。
また、KPIを設定することで、目標達成に向けた進捗状況を定期的に確認し、必要に応じて対策を講じることにつながります。
3-3. 関係者との連携:地域全体で取り組む
ワーケーション導入を成功させるためには、自治体だけでなく、地域全体の協力が不可欠です。
イメージとしては「オーケストラ」です。それぞれの役割を担う関係者が連携し、美しいハーモニーを奏でる必要があります。
◆地域住民
ワーケーションの受け入れに理解と協力を得るために、説明会や意見交換会を開催し、メリットやデメリットを丁寧に説明します。地域住民が主体的にワーケーションに関わることで、より魅力的な地域づくりにつながります。
初期段階では、地域住民への説明会や意見交換会を小規模で開催し、徐々に対象範囲を広げていくことが望ましいです。
◆地元企業
宿泊施設、飲食店、観光施設、交通機関など、ワーケーション関連事業に協力してくれる企業を募り、連携体制を構築します。地域企業がワーケーションをビジネスチャンスと捉え、積極的に関わることで、地域経済の活性化につながります。
初期段階では、既存の宿泊施設や飲食店と連携し、ワーケーションプランを開発することから始めることが現実的です。
◆観光協会
地域の観光資源や魅力を発掘し、ワーケーションプログラムに組み込むことで、観光客の誘致にもつなげます。観光協会が中心となり、地域の魅力を効果的に発信することで、ワーケーションの誘致につながります。
初期段階では、観光協会の既存のネットワークを活用し、ワーケーションプログラムを開発することが望ましいです。
◆商工会
地域の中小企業や個人事業主に対して、ワーケーション関連事業への参入支援や情報提供を行います。商工会が地域経済の活性化を支援することで、ワーケーションの成功につながります。
初期段階では、商工会の会員企業に対して、ワーケーションに関する情報提供や相談会を開催することから始めることが現実的です。
◆教育機関
大学や専門学校と連携し、ワーケーションに関する研究や人材育成を行います。教育機関がワーケーションに関する知識やスキルを持つ人材を育成することで、ワーケーションの推進につながります。
初期段階では、地元の大学や専門学校と連携し、ワーケーションに関するセミナーやワークショップを開催することから始めることが望ましいです。
これらの関係者と連携し、地域全体でワーケーションに取り組む体制を構築することで、より効果的なワーケーションの推進が可能になります。
3-4. ワーケーションプログラムの企画・設計:小さく始める
地域の特性を活かした魅力的なワーケーションプログラムを企画・設計します。
大きな予算がかかるインフラ整備やコワーキングスペースの設置をおこなうだけが、ワーケーションではありません。
まずは、旅行会社のツアー企画を参考にして、「交流人口」や「関係人口」を増やす施策となるプログラムを発案しましょう。
参加者のニーズを捉え、地域の魅力を最大限に活かしたプログラムを開発することで、地域へのニーズを確認し、本格的なワーケーション導入への理解を深めることができます。
小さく始めることで、リスクを抑えながら、効果的なワーケーションプログラムを構築するための貴重なデータと経験を得ることができます。
◆ターゲット層の明確化
どのような層(年齢層、職業、家族構成など)のワーケーション参加者を誘致したいのかを明確にします。ターゲット層を明確にすることで、プログラムの内容や情報発信の方法が明確になるため、ターゲットに届きやすい発信方法につながります。
◆プログラム内容の検討
ターゲット層のニーズに合わせて、仕事と休暇を両立できるようなプログラム内容を検討します。例えば、自然体験、文化体験、地域交流、スキルアップセミナー、企業研修など、地域の魅力を活かしたプログラムを企画します。
例:地元の農家と連携した農業体験+託児サービス付きワーケーション
例:デジタルデトックス滞在+座禅マインドフルネス体験
例:自然キャンプ体験+宿泊付き経営会議プログラム
◆滞在環境の整備
快適なワーケーション環境を提供するために、高速インターネット環境の整備、コワーキングスペースの設置、宿泊施設の確保、医療機関との連携などを行います。ただし、初期段階では、既存の施設やサービスを活用し、必要に応じて段階的に整備を進めていきましょう。
例:地域のカフェや施設にWi-Fi環境を整備
例:空き家や古民家を改修して簡易的なワーキングスペースを設ける
例:地元の宿泊施設と提携してワーケーションプランを開発
◆情報発信
ワーケーションプログラムの内容や地域の魅力を、ウェブサイトやSNSなどを活用して積極的に発信します。ターゲット層に響くような情報発信を行い、ワーケーションへの参加を促します。初期段階では、SNSアカウントの開設やターゲット層に絞った発信、地域メディアとの連携などを検討しましょう。
その後に、数値として費用対効果が計測しやすい、広告での発信も検討すると良いでしょう。
3-5. 成功事例に学ぶ:自地域に合った形を模索する
他自治体のワーケーション成功事例を参考に、自地域に合ったワーケーションの形を検討します。
◆長野県小布施町
長野県小布施町は、豊かな地域資源(葛飾北斎・栗)と地域コミュニティを活かし、ワーケーション施策を成功させています。特に、葛飾北斎ゆかりの地という特色を前面に出し、美術館内にコワーキングスペースを設けるなど、ユニークな取り組みが注目されています。地域住民や企業、大学との連携を通じて、多様な働き方を受け入れる環境を整備し、関係人口の創出につなげています。
◆和歌山県白浜町
和歌山県白浜町は、風光明媚なリゾート地としての魅力と先進的なICT環境を融合させ、ワーケーション施策を成功に導いています。
町は戦略的なIT企業誘致を推進し、セールスフォース社をはじめとする多くの企業がサテライトオフィスを開設。
充実したWi-Fi環境や、羽田空港から約60分というアクセスの良さも強みとなっています。単なる「仕事(Work)×休暇(Vacation)」に留まらず、「仕事×地域課題解決(Innovation/Collaboration)」や「仕事×学び(Education)」など、多様な「-ation」を創出するプログラムを提供し、関係人口の創出と地域活性化を実現。「地方テレワークの聖地」、「ワーケーションの聖地」として、全国から注目を集める先進的なモデルケースとなっています。
◆徳島県神山町
徳島県神山町は、豊かな自然環境と先進的なICTインフラを融合させ、サテライトオフィス誘致や移住促進に成功し「地方創生の聖地」「ワーケーションの聖地」として注目されています。
町内全域に整備された高速光ファイバー網を基盤に、NPO法人グリーンバレーが中心となり、行政と連携しながら企業誘致や移住者支援を展開。古民家を改装したオフィスや、滞在型宿泊施設「WEEK神山」などが整備され、多様な働き方を受け入れる環境が整っています。
「来るもの拒まず」の精神で移住者やクリエイターを受け入れ、アートプロジェクトや食を通じた地域づくりなど、さまざまな取り組みが互いに連携し合っており、持続可能な地域社会のモデルを築いています。
これらの事例から、自地域の特性を活かしたワーケーションの可能性を探り、成功のヒントを得ることができます。
ただし、成功事例をそのまま真似るのではなく、地域の状況に合わせてアレンジすることが重要です。
3-6. 継続的な改善:PDCAサイクルを回し進化を続ける
地域経済を活性化させ効果を持続させていくためには、常にPDCAサイクルを回し、改善を続けることが重要となります。
- Plan(計画):
ワーケーション導入の目的を達成するための具体的な目標を設定します。その上で、ターゲット層、プログラム内容、実施体制、効果測定の方法などを詳細に計画します。 - Do(実行):
策定した計画に基づき、ワーケーションプログラムを実行します。実行中は、参加者の満足度、業務への影響、地域への効果などに関するデータやフィードバックを収集・記録します。 - Check(評価):
収集したデータやフィードバックを分析し、計画時に設定した目標の達成度、プログラムの効果、浮かび上がった課題などを客観的に評価します。定量的なデータと定性的な意見の両方から評価することが望ましいです。 - Act(改善):
評価結果に基づき、課題の解決策を検討し、プログラム内容、運用ルール、情報発信の方法などを見直し・改善します。この改善策を次の計画(Plan)に反映させ、サイクルを継続します。
このPDCAサイクルを継続的に回していくことで、ワーケーション事業は常に現状に合わせて進化し、参加者、企業、地域社会にとってより価値の高い、魅力的な取り組みへと発展していきます。
【まとめ】ワーケーション導入は地域活性化への投資
ワーケーション導入は、地域活性化の有効な手段ですが、成功のためには準備と計画が不可欠です。
現状分析から目標設定、関係者との連携、プログラムの企画・設計、成功事例からの学び、そして継続的な改善を通じて、自地域に合ったワーケーションに取り組みましょう。
ワーケーション導入は、単なる観光客誘致ではなく、地域への投資です。
ワーケーションを通じて、交流人口が増加し、地域経済が活性化し、地域ブランドが向上することで、持続可能な地域社会の実現につながります。
この記事を参考に、ワーケーション導入の第一歩を踏み出し、地域活性化の新たな可能性を切り拓きましょう!
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